患者の意向を理解する

意向の尊重って?

患者の意向を尊重する、とは、あらためてどのようなことなのでしょうか。

広辞苑第5版によると、

意思:考え、思い。
意向:心の向かうところ。おもわく。(どうするかの)かんがえ。志向
尊重:とうといものとして重んずること。とうとく荘重であること

"意向"は、"意思"に対して、より患者が向かう方向性を意味しています(文字通りですが)。
患者は状況の意味づけを繰り返すことで、その意向は変わっていくのでしょうが、その根底にある患者の価値や考え方がみえてくるように思います。その価値や考え方を大切にしたかかわりをすることが、意向を尊重するということだと思います。

セルフケアを聴いてみましょう

セルフ(self 自分)ケア(care 気にかける)
今まで、どんなふうに病気や身体の調子につきあってきたのか、今後についての気持ち、今まで自分でがんばってきたことを聴いてみましょう。患者の話の中に、患者が今まで大切にしてきたこと、今後の意向がみえてきます。セルフケアしてほしいことを'指導する'前に聞いてみましょう。

入退院を繰り返している慢性呼吸不全、慢性心不全、慢性腎不全の患者さんに、今までどのように病気と付き合ってきたのか、今の状態、今後気をつけようと思うことなどを伺いました。

【目前の症状に対処している】
【今の生活維持は困難になり、次の療養ステージを志す】
【死に向かう今後を踏まえ、今の生活を充実させる】
【家族とともに生きる】
【死を迎える準備をする】

例)【目前の症状に対処している】
 本人にしかわからないこの呼吸苦症状の苦しさは、死ぬときこれで死ぬのはたまらない(混迷困惑する呼吸苦症状)。まだ死にたくないし苦しみたくないから、今の状態を維持できるよう煙草はやめて内服薬はさぼらない(身体の維持努力)。血圧や風邪には気をつけて、保険を調べ検査の値は記録して、良く考えて発作や苦労を避けるようにやっている(苦痛症状の予防努力)。吸いたい思いを抑えて禁煙は2年間も続いているし、歩けなくなってきたが補助具を使ってなんとかかんとか凌いで努力の成果もみられている。身体の頼るところは医者しかないが、空洞な心は、ある意味自由でやり場に困る。今まで苦労して生きてきたことはなんだったのか、間尺に合わないと思ってしまうが、これから先のことをいろいろ考えるということ自体は進歩があることなのかと人生を問う。(呼吸不全、80歳台 男性)

例)【死に向かう今後を踏まえ、今の生活を充実させる】
 今回の体調悪化の原因は、ストレスたまるほどの食事制限が原因だと反省し、ストレスを避けてバランスのよい生活をしようと思っていて、透析で引く微妙な水分加減も自分からスタッフに伝えていく。自分の具合が悪くならないように言うべきことは主張するが、看護師さんの責任にならないように、転ばないよう勝手には動かない。人間の死は仕方ないし死ぬこと自体は怖くないので肉親の良い死にざまを目標にして、今後の暮らしの見通しは、今足が弱ってきていて、いずれ自由に動けなくなったら透析可能な施設に入ることも検討しながら、命がなくなるまで、今この時を楽しく生きていこうと思っている。今は、透析でも道に転がっていても国が面倒みてくれるけれど、国にすべてみてもらうようになってしまったらおしまいだという生活信条に基づいていて、身体が効かなくなってきても、自分によい環境に身を置き、生きていく。(腎不全、70歳台 女性)

 あらためて入院中の患者さんに、なんとか時間を捻出して、話を伺ってみると、忙しい日々のケアが一味違ってきそうでは?
詳しくはこちら

患者の意向把握のプロセス=ケアのプロセス

準備中