看護実践

終末に至る軌跡を描くこと~ケアのタイミングをはかる

図1は、死に至るまでのプロセスの、異なるパターンを示しています。死に至る軌跡が異なることを理解することにより、患者の局面の特徴を踏まえたよりよい死を迎えるための個別的ケアを考えることができます(図2)。 呼吸不全や慢性心不全患者の軌跡のパターンは、増悪と寛解を繰り返し終末に至ることが特徴的です。慢性疾患患者が入院しているときは増悪時です。回復して少し安定しているときは自宅などの生活の場に戻っています。この時期は、今後も急性増悪を繰り返す可能性が高いからこそ、患者のQOLを高めるためのケアを行う重要なタイミングとなります。


終末に至る軌跡(tanimoto).png

看護師の悩み

病院看護師の調査によると、エンドオブライフ期慢性疾患患者のケアで看護師が困るのは、

  • 患者の死の不安に向き合うこと自体が不安。
  • 患者のこだわりが強く、なぜそうするのかが理解しがたい。
  • 患者の意向がわかりにくいうえ、時と場合で変わってしまう。
  • しなければならない処置や清潔ケアに対して患者が抵抗したり暴言を吐いたりする。
  • 患者の苦痛に対して、対応方法がわからない。
  • 主治医の方針と患者家族の意向がずれている。
  • 患者背景や問題が複雑で、患者をとりまくケアチームの関係性も常態化して、諦め感が漂っている。
  • 死生観や職業意識は看護師もいろいろなので、協力を申し出にくい。
  • 十分にケアに費やす時間と人出も足りない。
  • 退院先の受け入れ施設の条件に医療管理の方法が決まっている場合に、患者の意向を優先できない。

 病院で慢性疾患患者のエンドオブライフケアを実践するには、看護師の死生観の醸成、療養経過が長い患者の理解、慢性状態による身体反応の把握、緩和ケア技術、スタッフ間コミュニケーション、多職種の価値の相互理解、看護業務の調整、施設間連携、などが課題となっているようです。

Acvance Care Planning (ACP)とは

ACPとは、『自分が将来受けたいエンドオブライフケアについて、話し合うコミュニケーションのプロセス』です。

Advance Care Planning(ACP)の背景

 個人の権利や自律について強調される欧米において、医療ケアは、本人の意思で受けるもの、選択できる自由を保障することが重要です。米国では、1980年~1990年代の延命治療中心を巡る裁判により、Patient Self-Determination Act (PSDA)が制定され、事前指示書(Advance Directive;AD)が義務化されました。その後、大規模研究(SUPPORT)の結果、人々が尊厳が保持されない状態で亡くなっていることが明らかになり、ADの記載を義務化しただけでは駄目、自分が判断できなくなったときどのような医療ケアを受けたいかを周囲の人と話し合うプロセスが必要である、ということになり、注目されるようになちました。
 ACPは、米国では、2016年にメディケアの診療報酬対象になり、イギリスではNational Health Systemの一貫に位置づけられています。他に、オーストラリア、シンガポール、カナダなどの先進諸国で取り組まれています。

日本の状況

 日本では、2014年から開始した人生の最終段階における医療体制整備事業の一貫に、ACPのプロセスが含まれており、検証が試みられています。人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドラインを実質化していくための、医療者のエンドオブライフディスカッションの能力を高めることが、現段階では目指されているといえるでしょう。
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ACPにおける看護師の役割


慢性疾患看護の熟練看護師のエンドオブライフケアの実践
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〔参考文献〕
1)Lynn J,Adamson DM:Living well at end of life:adapting health care to serious chronic illness in old age.Arlington Rand Health, WHITE PAPER,p8,2003.